コロナワクチンを巡る特許訴訟について -IPRについて -その2
さて、今年のノーベル生理学・医学賞は、mRNAワクチンの開発で大きく貢献された研究者の方々に決まりました。
そんなコロナワクチンで一気に知られることとなったmRNAワクチンですが、その技術に関する特許については、昨年夏に、モデルナ社がファイザー社とビオンテック社に対して米国において特許訴訟を提起し、その反撃の一つとして、今年の夏に、ファイザー社とビオンテック社が、アメリカの特許商標庁に、IPRを申し立てているところとなります。
今回はこの度二社が申し立てたIPRについて、その概要について、もう少しみていきたいと思います。
コロナワクチンを巡る特許訴訟について -IPRが提出されたとのこと
IPRは、訴訟時にモデルナがあげていた3特許のうち、2特許について申し立てがされています。
10,702,600 (the “’600 patent”) : Betacolonavirus mRNA vaccine
mRNAを生体に投与しても分解がされず、mRNAが生体内に輸送されることを容易にし、ターゲット物質を細胞内に届けられるよう、mRNAを脂質ナノ粒子中にパッケージ化したことに関する特許となります。
10,933,127 (the “’127 patent”) : Betacolonavirus mRNA vaccine
mRNAワクチンの投与方法に関する特許で、脂質ナノ粒子中に処方されたmRNAと脂質ナノ粒子等の割合を特定することで、ターゲット物質に対するバランスの取れた免疫応答を誘導する、投与方法に関する特許となります。
IPRの概要
今回特許共に、約90のExhibit(証拠)が添付され、Anticipation, Obviousness(日本でいう新規性、進歩性)を主な理由として、ほぼすべてのクレームについて申し立てがされています。Exhibitの中には、先日ノーベル賞を受賞した、カリエンコ博士らの論文もあがっています。
さらには両IPRにおける主張として、米国特許法§325(d)による審判部が裁量を利用してIPRそのものを却下することについて、今回のIPRが特許庁に提出されたが実質的に検討されていなかった先行技術文献、または以前に特許庁に提出されていなかった文献に依存していること、および審査官が先行技術に対して特許の発行を許可するという誤りを犯したため、適切ではないとの主張がされています。
※米国特許法§325(d):「同じまたは実質的に同じ先行技術」によるIPRの
請求を退ける権限をUSPTOに与えている。
PTABではファイザー社とビオンテック社の代理人はWilliams & ConnollyとPaul Hastings、モデルナ社の代理人は、Wolf, Greenfield & Sacksとなっています。
参考資料:
Pfizer/BioNTech Take COVID Vaccine Fight with Moderna to PTAB
http://www.jipa.or.jp/kaiin/kikansi/honbun/2019_03_388.pdf
※写真はこの夏訪れた、ロンドンはテートモダン美術館から眺めたテムズ川